サプライチェーン戦略の再考

サプライチェーンの再編、最適化はCOVID-19の流行の遥か前から、グローバル企業の経営陣を悩ませる問題であり続けてきました。このブログの読者も多くの方がグローバルに広がるサプライチェーンを持つグローバルメーカーにとってそれは終わりのない究極の命題であると言えます。

 

今回はビジネス環境が大きく変化し、経済の先行きの不透明性が増す中で、現代のサプライチェーンのあるべき姿/向かう先を論じていきたいと思います。

 

 

<サプライチェーンの二極化と最適化>

これまで順調に進んできたグローバリゼーションについて、近年潮目が変わってきています。

今回のパンデミックの前から向かい風が吹いていた事はあえて言うまでもありませんが、そのトレンドに加え、2016年ごろからの米中貿易戦争により、関税や関連の貿易規制の変化などサプライチェーンに対する影響は大きく、コスト増による利益率の低下など経営者の立場とすれば、供給先/サプライチェーンの最適化の推進を迫られることとなりました。

 

利益率の確保や、安定したコストで生産を続けることを目的に別地域へ移管していく中で、COVID-19の流行が始まると、コスト面だけではなく、安定した供給が重要だと気づかされる事案が続きました。実例としては、FCAの欧州の工場が中国からの部品供給が停止したため、稼働を停止せざるをえない状況へと追い込まれます。すなわち、今やサプライチェーンは人件費の安い国に工場を建てるという単純な考え方では、リスクに対応ができなってきています。

 

シンプルに人件費の安い国に工場を建てるというのは、あくまでコストの大半を労務費が占めるという前提に立った議論です。製造ラインや倉庫物流業務の機械化や自動化が製造業では加速度的に進む現代の製造業ではすでに議論の前提が変化してきています。

 

さらにESG*に対する圧力も近年でかなり高まっていますが、サプライチェーンが長くなればなるほど、炭素排出量は大きくなり環境に対する負荷が高まります。この投資家の意識が高まれば、サプライチェーンを長くすることに対する批判も高まるでしょう。その上、国際的な租税裁定(tax arbitrage)の広がりにより租税の利鞘を得ることも困難になって来ているので、物流コスト(freight)の管理がこれまでよりも重要な要素になります。すなわち上に挙げた観点の多くは、サプライチェーンをコンパクトに短く再編する力学が働きます。

 

先日、日本に本社を置くメーカーのグローバル生産を統括する役員と、いかにサプライチェーンの再編と生産拠点の最適化が困難なのかについて議論になりました。欧州ではEUの中でも先進諸国のオランダやフランス、イタリアなどCOVID-19により停止した工場に対して70%~100%の人件費を政府が負担する国々がある中、東欧諸国では全く政府の介入は見られておらず、稼働停止時のコスト負担を全て企業側で行う必要性が出てきたということです。このパンデミックという危機がサプライチェーンの最適化を図る上でリスクベースシンキングがいかに重要かというてんで認識を共有しました。

さらに、カスタマーベースのバランスにも議論が及び、特定の産業に依存しないビジネスのポートフォリオを作り上げることが重要と述べていましたが、その取り組みはコロナ渦における数字に明らかに反映されており、業界全体の平均よりもわずかな影響で切り抜けています。

 

 

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<サプライチェーンの再編>

さて、このトレンドの中、サプライチェーンが短くなり消費者への距離が短くなると、ハーバード大学のVikram Mansharamaniは中国主導の経済圏と米国主導の経済圏の2つのエコシステムに分かれるのではないかと考察しています。さらに、その二つの経済圏の間での取引量は激減すると見ています。大国がしのぎを削る中、周辺国や周辺国に拠点を置くグローバル企業は、影響を免れません。

 

例えば、今回のパンデミックの中、アメリカでは抗生物質や処方薬の供給量が逼迫し、大きな問題となりました。その要因として政府やシンクタンクは流通する薬品の原料となる原薬や中間品のほとんどが中国由来であることを挙げています。薬品を精製するプロセスは制御された環境の中で行われる必要がありますが、薬品の元となる原薬や中間品を作る工程は意外にも単純で、大規模な工場で大量生産されています。すなわち、中国やインドが得意としている分野です。中国やインドに依存しているのは、アメリカだけでなく、日本も同じです。政治、安全保障の分野にも関わることから製薬メーカーのサプライチェーンに社会的な責任が求められ再編を迫られることも予想できるでしょう。その際にも上述したファクターを頭に描きながら再編を行う必要があります。

 

これを素早く、そして利益を残しながら行うためにはサプライチェーンの可視性が高くなければなりません。どこにリスクがあり、どのように対処すべきかをデータを元に分析しアクションとして実行していくためには、サプライチェーンを組織全体で管理することができるシステムの存在が欠かせません。各地域で統合されていないレガシーシステムを使用しているとリアルタイムのデータを見ることができないだけでなく、アクションをとるのが遅れ、機会損失を免れません。一方でプラットフォームを統一しモダンなシステムにすでに投資している企業はその投資を競争力の源泉と変え、ポストコロナの時代での繁栄を見ることができるでしょう。

 

サプライチェーンやそれを管理するシステムが長年変わっていないことはありませんか?また、各地域でバラバラのものになっていませんか?もし、思い当たる節があれば、動き続ける世界の中で立ち止まることのリスクを中長期的な目線で捉え、戦略の再考をしてみてはいかがでしょうか。