「データ」 – 自動車サプライヤー市場における第5の要素

今日、自動車業界に影響を与える技術的なディスラプションの4つの分野、Autonomous (自動運転)、Connectivity (コネクテッド)、Electrification (電動化)、Sharing (シェアリング) 、いわゆるACESが有名です。ここからはディスラプションの第5の要素であるデータ・マネタイゼーション (データの収益化) を紹介し、サプライヤーのビジネスモデルに与える影響について説明します。

自動車業界における著しい技術シフトに伴い、サプライヤーにとっては新しい市場で足掛かりを見つけることはますます困難になってきています。ある企業では、すでに事業の引継ぎや操業停止のために買い手を探しはじめているかもしれないし、別の企業では、新しい分野を開拓する方法を模索しているかもしれません。自動車サプライヤーにとって、人気が高く、急成長している分野はソフトウェア開発とソフトウェア管理の両方です。しかしながら、私はサプライヤーにとっては、これをさらに前進させるチャンスがあると考えています。この自動車サプライヤーのビジネスモデルは、単なるソフトウェアからマネタイズ(収益化)可能なデータへと急速に進化しており、大きな参入障壁を生み出す可能性を秘めています。

 

サプライヤーのソフトウェア・ビジネスモデルの種類

現在、サプライヤーのソフトウェア・ビジネスモデルの状況は、ハードウェアの収益化、契約サービス、ソフトウェア・ライセンス、サブスクリプションの4つの主要なタイプで構成されています。 Aptiv社はハードウェア・サプライヤー モデルの素晴らしい事例です。レーダーソフトウェアを無料で配布し、それを実行するために必要なハードウェアで収益化しているだけです。契約サービスについては、 Elektrobit社 KPIT社が良い例です。AppleのCarPlayは、ソフトウェア・ライセンス・モデルの一例です。最後に、 HERE社のような企業は、ますます人気が高まっているサブスクリプションモデルを活用しており、自動運転に不可欠な、常に更新されるHDマップ (高精度地図) と引き換えに継続料金を顧客に請求しています。

しかしながら、自動車に新しいソフトウェアやハードウェアが流入することで、データの流入も増えています。最近、設計および生産された自動車は10年前よりも飛躍的に多くのデータをすでに提供しています。 まもなく、データ生成は1日あたり4K GBになります。これは、超音波、レーダー、カメラ、GPS、ライダーシステムなどの高度運転支援システムに関連するコンポーネントによって作成、処理、出力される情報です。 これらは膨大なデータ量です、つまりそれをどう処理しているのか、その価値は何なのか、ということです。

 

サプライヤーのソフトウェア・ビジネスモデルをサポートするためにデータはどのように使用されていますか?

もちろん、最も基本的なレベルでは、データはこれらの高度な安全システムに使用されます。カメラとレーダーは、データを使用して、車線内の車両位置を (他の物体との相対的な位置) 特定し、何かが障害物である場合や安全でない距離にある場合、車に信号を出します。

この貴重なデータは、自動運転に必要なものであり、車線変更や安全に道路の出入りの操縦を決定するために使用されます。これらのセンサーは、このデータを使用して、天気、交通状況、道路工事などのリアルタイムの運転状況を監視することもできます。

あらゆるタイプの企業、例えばアプリケーション開発、保険会社、都市計画、テクノロジー企業、自動車関連企業、そして無数の新興企業などがこれらの大量のデータを有効に活用することに惜しみなく費用を支払うことでしょう。例えば、データの拡張性と品質に惹かれて購入する人など、今日の自動車で作成された地図には買い手がいます。この技術で作成された地図は高精細、超高速、リアルタイムのリフレッシュレートを持ち、ますます電動化が進む自動車では重要かつ切望される機能です。

この「位置データ」は、知られているように、自動運転のL2、L3、L4車両メーカーやこれらの車両の運用にとっても非常に価値のあるものです。裏道や新しい舗装路のような車線表示のないエリア、悪天候のルート、急カーブの範囲や視認性など、ナビゲートが最も困難なルートを位置データで明確にしています。このデータは、最新のマッピングシステムの背後にあるソフトウェアの微調整を、より費用対効果の高い方法で簡単に行うことができます。

最後に、現代の自動車が生成するデータについては、自動車業界以外にもかなりの市場があります。それは都市づくりです。 都市づくりによって交通とインフラの近代化に投資することになります。そのためにリアルタイムでの位置データが必要となり、交通や歩行者のパターンを把握することで都市計画に情報を提供し、将来の自律型公共交通機関プログラムの基盤作りにも役立っています。

 

データはどのようにしてサプライヤーをディスラプションさせるのか?

では、これがどのようにサプライヤーのビジネスモデルを破壊 (ディスラプション) させるのかを説明しましょう。 Mobileye社(ビジョンアルゴリズムを開発している) のようなサプライヤーは、 Aptiv社 Bosch社 (この場合はレーダーシステムで知られている) とともに、センサーデータを取得して販売する自動車メーカーにたいして大幅な値引きを提供している。これらの企業は、この取得したデータを高精度地図会社に販売します。高精度地図会社は、データをリアルタイムのサブスクリプションとしてパッケージ化し、自動車メーカーと消費者に販売します。同様なことが市場の他のプレーヤーにも当てはまります。彼らは仲介者として機能し、最初にデータを収集している車両のメーカーを含め、車両とデータ購入者の間のデータ交換を仲介しています。

これが、 Bosch社 TomTom社とのパートナーシップを確立し、 HERE社へ投資する理由です。これらの企業は、OEM (完成車メーカー) への1回限りの製品販売に焦点を当てているだけではありません。現在では、HDマップ (高精度地図)、走行情報、または都市計画担当者向けなど、サブスクリプションベースでサードパーティにデータを販売することで、新たな収入源を生み出しています。このデータを生成して収益化できる企業は、そうしたインフラストラクチャを構築できない、または構築しないサプライヤーよりも競争力を高め、これらの新しい収益源を生みだす可能性があることを示しています。

データの収益化は、よく知られたサプライヤーの従来型のビジネスモデルと並んで、急速に本格的なビジネス領域になりつつあるため、できるだけ早くこの分野に飛び込むことを検討できるサプライヤーは、この分野への参入を検討してみてもいいかもしれません。内燃機関車(ガソリン車)よりも、電気自動車や自律走行車が新たな未来の前触れとなる中、従来のサプライヤーが技術シフトを生き抜くために必要な競争力を獲得し、維持することは、より困難になるだけでなく、行動を起こす絶好の機会となるでしょう。