新しいFMEAハンドブックは自動車業界の「品質」のゲームチェンジャーなのか?

2019年6月、米国自動車工業会(AIAG)とドイツ自動車工業会(VDA)は、FMEA(Failure Mode Effect Analysis:故障モード影響解析)を、改善および調和させるための共同の取り組みとして、FMEAハンドブックを発行しました。 これはFMEAの品質と有効性を真の意味で改善するためのゲームチェンジャーなのか?

2019年の新版”FMEAハンドブック”でFMEAは改善されるのか?

まずは、AIAGの旧バージョンのハンドブックである2008年発行のFMEA 第4版と比較して、その変更と目的を理解しましょう。

  1. 7段階の解析手順: これらの手順は、FMEAのタイプに関係なく同じであり、チームの透明性をサポートし、明確で、正確な、そして現実的かつ完全な結果を提供することにフォーカスし、FMEAへの体系的なアプローチを提供しています。

  2. 5つの「T」の適用: これらは、FMEAに取り組んでいる部門の枠を超えたチームを調整するように設計されています。5つの「T」とは、FMEAの実施目的・意図の「InTent」、実施時期の「Timing」、チーム編成の「Team」、任務の「Task」、手法の「Tools」を表します。

  3. リスク優先指数(RPN)に代わり、処置優先度(Action Priority: AP)を導入: RPNは、検出を強調しすぎていると長い間批判されてきました。 APは、重大さ、発生度、検出度の順に重点を置きます。 その結果、各リスクの高、中、低の評価が行われ、リスクが “高” の場合にはリスク削減アクションを定義する必要があります。

  4. 監視活動およびシステム応答(Monitoring and System Response: MSR) に関するFMEA: これはまったく新しいFMEAタイプです。 これは、安全な状態または規制順守の状態を維持するために、顧客の使用中の障害軽減を定義することを目的としています。これは、故障や障害の発生時に最大の安全性を確保するために、より多くの自動化された装置や輸送に着手するために必要とされるFMEAです。

  5. Foundation and Family FMEAs: このハンドブックでは、知識を制度化し、その知識の効率を高め、時間の経過とともに改善され、既存の製品や新製品に組み込むことができる生きた文書にするために、Foundation and Family FMEAsの使用を推奨しています。

  6. 作業要素: 工程故障モード影響解析(Process FMEA:PFMEA) のハンドブックでは、PFMEAに適用可能な作業要素のタイプ(人、機械など) について考えるためのフレームワークについて詳しく説明しています。 これにより、チームがすべての理由を考慮する可能性が高まります

  7. 複数レベルの影響: ハンドブックでは、故障モードの一般的な「影響」を超えて考える必要があり、工場、工場間、および製品のエンドユーザーへの影響を特定します。エンドユーザーによる製品の適用を理解することで、故障モードの深刻度を決定することができます。

 

ビジネスを危険にさらす可能性のあるFMEAの実行

あなたのビジネスを危険にさらす可能性のある、一般的にみられるいくつかの実例を考えてみましょう。
 

FMEAの運営資金の不足

特にそれを「経営者支援」と呼んでいないことに注意してください。FMEAを本当に効果的なものにするためには、配慮と供給、つまり資金が必要です。一般的に、経営者がFMEAに取り組むことをセーフスペースにしていないケースを多く目にします。現在の顧客の問題に対処することは、ほとんどの場合、優先されます。しかし、何を犠牲にしているのでしょうか?FMEAに口先だけの支持では、意図した恩恵は得られません。誰もが信頼できる高品質で安全な製品を求めていますが、FMEAを効果的に行うために時間をかけていないことの影響について考えている人はほとんどいません。 あなたの組織に起因する品質逃れの影響を考えてみましょう。

簡単な例としては、これらは顧客注文を満たすために本来のコミットメントを維持するための26のステップです。

オレンジ色のステップは、お客様にとって必要な取り組みです。これについてはリソースの膨大な浪費になるために、一部の組織においては部門全体でこれだけを行っています。このようなカオスを受け入れる理由は何でしょうか?これを防ぐにはどうすればいいのでしょうか? 非常に高い品質コスト、顧客満足度の問題、利益率の低下、そしてブランドリスクにおよぼす発見と火消しを受け入れるよりも「品質」のために計画する行動に変える。新しいFMEAハンドブックは、行動の変化を促進するためのフレームワークを示していますが、経営陣が資金を出さなかったり、規則の順守や成果物に対して要求もせず、監視もしなければ、おそらく変化は起こらないでしょう。
 

チェックボックスをオンにする

顧客が事後的にFMEAを行っていることが見受けられます。これにはいくつかの崇高な側面があるかもしれませんが (例えば、リスク分析を行ったという事実)、大多数のケースでは、「チェックボックスをオンにする」ための努力に過ぎず、FMEAを行うことの大きな恩恵にはつながりません。それは2つの根本的な問題につながる可能性があります。つまり、本当にリスクの低いものを検査するだけで、評価コストを押し上げること、または / もしくはリコール、損害、または状況がさらに悪くなる可能性のある重要な特性を検査しないことです。FMEAを効率的かつ効果的に行うためには、非常に手間のかかることです。様々な組織で最も経験を積んだ、観察力が高く、その部門に品質を構築することに熱心な最高のリソースが必要となります。 新しいFMEAハンドブックは、計画、リスク分析、優先度の高い項目の最適化、およびFMEAを実行した結果の文書化を求めています。
 

前のパートからのコピー

別の見解によると、顧客が前のパートのFMEAからコピーすることがよくあるということです。これは必ずしも悪いことではありませんが、その実行を最後までやり通さない場合は危険です。 多くのお客様は、前のパートのFMEAをコピーし、そのパートに固有の障害のみを追加します。 それらが組み込まない可能性があるものは次のとおりです。

  • 前のパートからコピーされてから行われたFMEAの改善

  • 製品の用途 / 使用に基づく重大さの調整

  • 新しいデータに基づく発生度と検出度の調整

新しいFMEAは、新しいパートのFMEAを作成するだけでなく、必要に応じた変更による既存のFMEAを更新することを推奨しています。
 

結論

新しい2019年のAIAG / VDA FMEAハンドブックには、チームを支援し、文化を改善し、品質の問題を防ぐための非常に健全なベストプラクティスがあります。しかしながら、経営者がFMEAの取り組みに資金を投入せずに、責任を負わないのであれば、それはほとんど意味をなさないでしょう。この新しいハンドブックをきっかけに、文化的な変化を起こし、混沌とした状態を取り除き、ブランド価値と利益率を改善してください。企業は常に製品の品質にお金を払うでしょう、それを受身で行われるときは、それは単純にはるかに高くつくものになるでしょう。また品質管理についてのQAD顧客事例もお読みください。